より良い医療を行うために新しい薬や治療法が絶えず開発されてきています。
身近なものとしては、いわゆる「怪我」の治療法も、ここ20年程度で大きな変化が起こっています。
傷には、(1)消毒薬(消毒を含む軟膏)を塗る、(2)ガーゼを当てて乾かす、(3)傷は濡らさない(風呂にも入らない)といった処置や治療をするのが良いと思っている人が多くおられます。このような方法は、傷の治りを悪くするため、近年は行われない様になってきています。
消毒薬は、怪我の周囲の細菌を一時的に減らす事はできますが、傷を治すのに必要な体の細胞まで減らしてしまうので、結果として傷の治りが悪くなります。また、ガーゼなどで乾燥させると傷を治すための滲出液(傷からでる液)の作用がなくなります。また、乾燥してかさぶたができるとさらに傷の治りが遅くなり、瘢痕(きずあと)も残りやすくなります。
現在は、創傷の治療では湿潤療法という治療が一般的になってきています。傷を水道水でよく洗浄した後に、乾燥させないような被覆材で傷を覆うように保護します。その後も傷は濡れても良く、むしろ被覆材の交換ごとに水道水での洗浄を行います。このように傷を絶えず乾燥させないようにして、人体が持っている傷を治す力を最大限に活用する治療法です。
湿潤療法では、傷口に消毒薬を塗ったり、乾いたガーゼを外したりしないので、治療による痛みが少ない上に、従来の治療より早くきれいに治ります。消毒しないことなどに抵抗を感じる人も多いと思いますが、新しい治療法として知っていただければと思います。
ただし、汚れのひどい怪我、動物に咬まれた傷など、湿潤療法が適切でないこともあります。
外科 部長 尾原伸作
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